2022/06/21
皆さんは『歯周病』はお口の中だけの病気だと思っていませんか?
私たちは口から食べ物や飲み物を摂取することで、たくさんの栄養を身体に取り込み全身に行き渡らせています。しかし、口からは食べ物や飲み物から得られる栄養だけではなく、口の内外にいる様々な菌も取り込まれているのです。
このことから、近年では歯周病と全身疾患の関連性が注目されるようになってきました。そこで、今回は、相互の影響が深い歯周病と糖尿病の関係についてお話したいと思います。
歯周病という言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、どんな病気なのか理解できている方は少ないでしょう。港南台パーク歯科クリニックにクリーニングにいらっしゃる方にお聞きしても、大多数の方が「歯ぐき(歯肉)の病気」と回答されます。
症状の一つとして「歯肉の炎症」などはありますが、実は歯周病は歯ぐきだけの病気ではありません。歯周病は、歯周病菌などの細菌によって引き起こされる炎症性疾患で、「歯の周りの歯肉や、歯を支える骨(歯槽骨)など周りの組織が溶けて破壊されていく細菌感染症」です。
歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないままでいると、そこに多くの細菌が停滞し歯肉が炎症を起こして赤くなったり、腫れたりします。それでも、痛みを感じることがほとんどなく、知らない間に症状が進行していることもあります。さらに悪化すると、歯を支える骨(歯槽骨)を溶かし、膿が出たり歯が動揺してきて、最後には歯を抜かなければならなくなってしまいます。
歯を失うと、
・食べ物を噛む力が弱くなる、噛めなくなる
・言葉を発しにくくなる
・表情が変わる(老ける)
というような変化が起こります。この中でも食べ物をしっかり噛めなくなるということは、胃や腸など内臓への負担も大きくなり、様々な全身疾患への足掛かりになってしまいます。
歯周病は、症状が大きく進行するまで自覚症状が出にくいことから「お口の中のサイレントディジーズ(静かに進行する病気)」とも呼ばれています。
私たちは、日常の身体活動を行うために必要なエネルギー源(ブドウ糖など)を食事を通じて摂取しています。
摂取した糖は腸で吸収され血液中に入り込みます。ただ、糖が血液中に存在し続ける限り、私たちはそれをエネルギー源として利用できません。この時に「血液中の糖をエネルギーに変えて肝臓や筋肉、脂肪組織で貯蔵するために働くホルモン」がインスリンです。
食事をして血液中の糖が増える(血糖値の上昇)と、すぐに膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌されます。インスリンの働きによって血液中の糖が細胞に取り込まれエネルギーとして利用されると、血液中の糖が減少します(血糖値の低下)。つまり、インスリンの働きによって上がった血糖値が下げられているのです。
インスリンの働きが鈍くなり、血液中の糖濃度が高い状態(高血糖)が続くと糖尿病となります。血液中の糖分が細胞に取り込まれないまま残り、尿に糖が排泄されるため、糖尿病と呼ばれるのです。
糖尿病は、インスリンの作用不足で慢性的な高血糖を引き起こします。血管を傷つけ、長期化することで特有の合併症をはじめとする様々な合併症を生じる代謝疾患です。
このインスリンの作用不足を生み出す原因として主に、絶対的なインスリン不足と相対的なインスリンの分泌不足の二つの要因が考えられています。
・1型糖尿病
インスリンを作る膵臓のβ細胞が完全に破壊されてしまい、インスリン分泌が枯渇するタイプで、いわばインスリンの絶対的な作用不足で発症するものです。インスリン分泌が枯渇しているので、インスリンの投与によって体の外部からインスリンを補充する必要があります。
・2型糖尿病
インスリンの相対的な作用不足によるもので、主に生活習慣病として発症します。糖尿病の多くの方は、この2型糖尿病にあたります。インスリンの作用不足をもたらす仕組みについても二通りの要因が提唱されています。
一つ目が、「インスリンの分泌不全」です。前述の1型糖尿病はインスリンが全く分泌されない状態であるのに対して、こちらは、インスリンの分泌能力は保たれているものの、糖の摂取に対して分泌量が相対的に不足し、血液中の糖分を細胞に十分取り込ませるに足るだけのインスリンが分泌されない状態です。
二つ目が、「インスリン抵抗性」です。これは、インスリンの効き具合が悪いことをいい、インスリンそのものは分泌されるものの、その作用が何らかの原因で阻害され血中の糖を細胞に取り込みづらく、インスリンの機能が発揮できない状態を指します。「インスリン感受性が悪い」とも表現されます。
インスリン抵抗性があると細胞に糖を取り込むことが困難となり、私たちの体は何とかして血糖値を下げようと努力し、過剰にインスリンを分泌するようになります。
そしてこの状態が持続すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞に過度の負担がかかり、その上でさらに無理強いしてインスリンを分泌させることとなるため、インスリン産生細胞自体が疲れ果て分泌機能が弱くなっていきます。その結果、最終的にインスリン分泌が枯渇してしまい、糖尿病が進行していくこととなるのです。
日本人はもともと白人などに比べてインスリン分泌能が低いといわれています。それに加えて遺伝的にインスリンの量が少ないことや、生活習慣(高脂肪な食事や不規則な生活やストレスなどの環境因子、運動不足など)が糖尿病の発症に関係している場合が多いと言われています。
・その他の糖尿病
1型、2型のほかに、糖尿病の原因として、遺伝子異常やほかの病気(慢性膵炎、膵癌、慢性肝炎、内分泌疾患)、副腎皮質ステロイドなどの薬物、ウィルス感染、妊娠などがあります。
糖尿病は、生涯にわたって付き合っていく病気のため、いずれの場合にも、食事療法や運動療法、インスリン療法などによって血糖値をコントロールしていくことが、様々な合併症の予防のためにも大切となります。
・糖尿病に特有の合併症
主な合併症として3つのものが知られています。目の病気である糖尿病性網膜症、神経の障害である糖尿病性神経障害、そして糖尿病性腎症です。
糖尿病性網膜症は放置すると失明に至りますし、糖尿病性神経障害には手足のしびれや冷え・つり・痛みなどの「感覚神経障害」をはじめ、立ち眩み、食欲不振、便秘や下痢などが起こる「自律神経障害」、足の感覚が鈍くなったり感じなくなるなど「足部の神経障害」などがあります。そして、糖尿病性腎症は長期間放置すると腎臓の機能が悪化し透析を受けなければならなくなります。
しかし、多くの場合この3つの主な合併症は痛みを伴わないため、糖尿病の指摘を受けても無自覚のうちに症状が進行してしまうことが多いようです。糖尿病と指摘されたら、合併症が進行していないか定期的に受診することがとても重要です。
・糖尿病で進行が促進される合併症
これら3つの特有の合併症に加え、高血糖の状態が続くと血管を傷つけるため、糖尿病になると進行しやすくなる病気として以下のものが挙げられます。
・動脈硬化
体に栄養や酸素を運ぶ大きな血管(動脈)が硬くなり、血管が狭くなる、詰まりやすくなる、破れやすくなるなどの問題が起こる病気です。
動脈硬化があると、心筋梗塞(心臓の筋肉に栄養を供給する血管が詰まってしまい、心臓を動かす筋肉の細胞が壊死してしまう病気)、脳梗塞(脳内の神経細胞に栄養を供給する血管が詰まってしまい、脳神経に障害が起こる病気)を引き起こしやすくなります。
・糖尿病性足病変
足部の感覚低下に始まる「神経障害」がさらに進行すると、足に傷を負っても気づきにくくなり、そこから細菌に感染し、水虫や足の変形やタコ、ひどい状態になると足壊疽(あしえそ: 足の組織が死んでしまう状態)などを起こします。
また、糖尿病になると傷の治りが悪くなったり、骨粗鬆症と呼ばれる骨の密度が下がり骨折しやすくなる症状も進行すると言われています。
・歯周病は糖尿病の6番目の合併症?
近年では、糖尿病が歯周病の進行も促進することが明らかになっており、歯周病は「糖尿病の6番目の合併症」であると認識されるようになりました。また、糖尿病になると体内の様々な血管が傷ついていることから傷の治りも悪くなり、抜歯や手術等の外科的歯科治療の際に細菌感染を起こす危険が高まります。
そのため、糖尿病と指摘された方は歯科治療をしなければならなくなる前に、歯周病の治療や予防をしておくことが重要です。
なぜ糖尿病と関係がないように見える歯周病が糖尿病に関わってくるのでしょうか。歯周病と糖尿病の関係について説明します。
・口腔内および歯周ポケット内の環境変化
健康な人に比べて、糖尿病の人は唾液の分泌量が低下します。さらに、唾液中の糖分の濃度が上昇しており、こうした条件が重なることで「プラーク(歯垢)の付着」・「細菌の増殖」が加速し、歯周病が進行すると考えられています。
・易感染性
糖尿病になると、身体が感染を防ぐあらゆる機能が低下することが知られています。感染によりダメージを受けた組織の修復が遅れることに加え、高血糖による血管損傷で、より歯周病になりやすい状態となります。
・高血糖下における炎症増幅
高血糖状態が続くと、白血球機能や免疫反応が低下し、歯周病が発症・悪化しやすくなることが知られています。一方で、歯周病が糖尿病の悪化につながるとも考えられています。
歯周病になると、歯肉の中で作り出される炎症物質が血液を介してインスリンの効きを悪くしてしまうのです。また、歯を失うと柔らかい食べ物ばかりを好むようになり、栄養バランスが悪化することで血糖値に悪影響を及ぼすともいわれています。
糖尿病の人の歯周病治療では、プラークコントロールを徹底することは非常に大切です。それに加えて、高血糖状態そのものが歯周病のリスクになっていることも考慮し、歯科医と内科医が連携して治療にあたることもとても重要になります。
最近の研究では、歯周病をきちんと治療するとインスリン阻害物質の産生が低下するため、糖尿病の改善が期待できると考えられるようになりました。
また逆に、糖尿病の改善は歯周病の症状改善につながるということもわかってきています。歯周病と糖尿病は悪い影響を及ぼし合うだけではなく、病気の治療をすることで互いに病気を改善しあえることにもなります。
しかし、歯周病は急性症状が出ない限り痛みを伴わないため、進行の程度がつかみにくいです。よって気づかぬうちに歯周病が進行しないよう、定期的な歯科受診によって、歯周病の進行度をチェックすることが大切です。
また、糖尿病と深い関係がある歯周病の対策として、セルフケアが重要です。特に糖尿病の人の歯肉は、健康な人よりも炎症が起こりやすく、毎日のケアにも注意が必要です。
まずは、適切なセルフケアを行うためにも、「使用するアイテムの選択」や「ケアの方法」について、ご不明点があれば何でもお気軽にご相談ください。
当医院での定期健診・クリーニングのご来院をスタッフ一同、お待ちしております。
こちらもご参照ください。